知られざるカオスの時代
慶應大学SFC時代 七夕祭で友人と
── そうやってジャズに出会った高木さんが、「音楽で生きていく」って決めたきっかけは何だったのでしょうか。
高校時代に不登校にはなりましたが、頑張って大学には行くことになって、選んだのが慶應のSFC（湘南藤沢キャンパス）でした。それまで自分以外、家族が全員慶應だったので、慶應に対する憧れというか…子供の頃から最終的にいつか慶應に行きたいという気持ちが強かった。でも、その中で音楽が出来る学部となると、SFCでした。コンピュータを使ったクリエイティブな勉強もしてみたいと思っていました。ただ入ってみたら思ってた音楽系の授業ではなく、どちらかというと数学的な内容でちょっと想像と違った。ジャズ研に入ろうかなとも思ったのですが、SFCのサークル活動は規模が小さかったのと、当時はまあコミュ障でもあったので入らず（笑）、大学時代の音楽活動は高校時代から通っていたジャズレッスンくらいでした。
大学3年生くらいから周りは就職活動を始め、進路を続々と決めていくなか、「OLは無理だな」と考えてた私はどんどん取り残されていって。「やばい私どうするんだろう」と（笑）。で、考えれば考えるほど私にはピアノしかないってことに気づかされる。その時ですかね、「これを仕事にするために頑張ろう」と思い始めたのは。とはいえライブ活動をやっていたわけでもないので、音楽業界にはまったく伝手がない。そこで私がとった行動はヤマハのMOTIF ES8っていうプロフェッショナルシンセサイザーを買うことでした。
── シンセサイザーですか？
ええ、大学4年になる頃にはほぼ卒業に必要な単位は取得していたので時間は十分にあった。それを曲づくりに充てようかと。操作なんかは独学で勉強して、1日1曲くらい創って作曲家事務所や音楽事務所に送るってことを始めたんです。同時に演奏を披露する場所も探そうってことで、インターネットで演奏など音楽関係の求人情報を調べたり、ピアノバーに「弾かせて欲しいんですけど」って飛び込みで営業活動みたいなこともしました。初めてライブ演奏したのは新宿のJAZZSPOT J（2020年に閉店）。早稲田大学のダンモ（モダンジャズ研究会）の方が中心にやられていた老舗のジャズクラブで、知り合いのピアニストさんが出ている時にお邪魔したら、マスターに「休憩中でよかったらちょっと弾いてみなよ」って言われて演奏して「全然まだまだだけど、今度演ってみる？」って言ってもらえて。
── ちょっと、今の高木さんから、そういう下積み時代が想像できないんですけど（笑）。
実はそういう地道な活動をしている時期が長いんですよ私（笑）。今、私が出ているお店で一番古いのが六本木のMy Scotchっていうピアノバーですけど、そこに売り込みで行っているときに、姉妹店のIZUMIっていうピアノバーをやっているママが来られて、私を見て「あなた今度手伝いにきなさいよ」っ言ってくれて演奏できるようになったり、その後、My Scotchで演奏できるようになって、それを見た他の店の方が「今度ウチでも演りませんか？」って声をかけていただくようになったり、少しづつ輪を広げていったんです。
── 学生時代からライブ活動をされていて、早くに業界関係者に発掘されて、そのまま順調にデビューしたのかな、なんてストーリーを勝手に想像していました。
いえいえ、まったく逆で、時給換算すると100円くらい（笑）なんていう、駆け出しの時代があるんですよ。
六本木のMy Scotchで
── 一方、大学を卒業されてすぐ、Inner City Jam Orchestraというハウス系のユニットのキーボード奏者としての活動も始められますよね？
音楽の仕事をインターネット上で探している時、Inner City Jam Orchestraはすでに活動していて、CDを制作するにあたって「キーボーディストを募集しています」っていう告知を見て、それに応募したのがきっかけです。そこに参加するようになってから演奏者としてだけではなく、私のオリジナル曲でアナログをリリースさせてもらえるようになって、私のSAKURAって曲が（今はなき）DMRのダンスミュージックのランキングで上位を獲得したり。一部で注目を集めるようになっていったんですね。
── お話を総合すると、そういう活動と並行してピアノバーなどの開拓もやっていたってことですか？
そうです。冒頭でお話ししたように、私の中では柱はジャズだったので、ダンスやハウスで注目されても、それ一辺倒という気持ちはなくて、地道にジャズをやっていくという点ではブレてなかった。だからある日はダンスフロアにぎっしりの人に向かって、派手な衣装で打ち込みのリズムに、シンセでトランスするようなアドリブを披露したかと思えば、次の日は高級ホテルのラウンジでドレスを着てしっとりとソロピアノ。時には酔客の演歌の伴奏させられたり（笑）。なかなかにカオスな日々を送っていたんです。
── 僕らが高木さんを知る東京JAZZのパフォーマンス、avexからのメジャーデビューはまだ先ですよね。
ええ、まだ5年くらい先かな。