ピアニストとして、今、
私のいる場所

アーティストインタビュー
高木里代子さん(ジャズピアニスト)

 

ピアニストとして、今、私のいる場所

アーティストインタビュー
高木里代子さん(ジャズピアニスト)

2015年の東京JAZZの屋外ステージに水着姿で登場。超絶プレイで注目を集めたジャズピアニスト高木里代子さん。デビュー以来、その派手なパフォーマンスが話題を集める高木さんが、2021年末〜22年初めに立て続けにオーセンティックなジャズピアノアルバムを2枚発表。今、なぜ正統派ジャズなのか。このアルバム、そして高木さんのピアノへの想いについて、じっくりとお話をお聞きしました。

10年分の思いを込めた2枚のアルバム

── 2021年末に『Celebrity Standards』、2022年初めに『Jewelry Box』という2枚のアルバムを立て続けにリリースされました。いずれもピアノトリオ編成で内容もオーセンティック(真正)ジャズ、いわゆる“どジャズ”です。東京JAZZでの衝撃のステージ、DTM *とジャズピアノの融合など、これまでの高木さんの活動イメージからすると、意外に思われた方も多いんじゃないでしょうか。

10年くらい前にインディーズでピアノトリオアルバム(『AFTER TEARS』)を1枚出していますが、これはあるスタジオのプロモーションのために依頼されて録ったもので、自分主導のアルバムとしては、今回が初めてのピアノトリオ作品になります。この2枚のアルバムはたしかにこれまでのDTMやダンスミュージック+ジャズピアノという世界観とは異なりますから、メディアで紹介されてきた私の活動しか知らない方には、「高木里代子ってこんなの演るの?」って思われた方も多いかもしれません。ただオーセンティックなジャズっていうのは、私の音楽活動の中心にずっとあったもの。それこそ人前での演奏を始めた頃も、avexからのメジャーデビューアルバム『THE DEBUT!』でデジタルとジャズが融合した作品をリリースしてから今に至るまでも、常にライブの現場ではソロピアノやピアノトリオといった形でジャズに向き合い続けてきました。
 

── 自分が還るべき場所、戻るべき場所ってことでしょうか?

一度もジャズから離れたことはないと思っているので、自分の柱、中心にあるものっていう感じですね。私自身は常に自分をジャズピアニストだと思っていたし、いつだって自分の音楽生活の真ん中には生ピアノ、ジャズがありました。デビューアルバムでのDTMでの音づくりや、ダンスミュージックの要素を取り入れた楽曲などは、王道ジャズファンの方からすると「なんかチャラいことやってる」って思われたかもしれないですけれど、POPな要素を取り入れたことで、ジャズを知らない若い層に知ってもらうきっかけになったと思いますし、今回のアルバムのアレンジなどにも、確実にあの経験がフィードバックされているんです。

Celebrity Standards(2021年、Steelpan Records)

── たしかに今回発表されたアルバムでも、たとえば『Celebrity Standards』に収められている<Take Five>のアレンジなどは、どこかエレクトリックな雰囲気を漂わせています

発表した2枚のアルバムは同じメンバーで、同じ時にレコーディングした楽曲群。その意味では2枚に明確なコンセプトの違いはないんですが、あえて分けるとしたら『Celebrity Standards』はアレンジの妙、テクニカルな雰囲気が強い曲を中心に集めています。なかでも<Take Five>はドラムはずっと4拍子をキープしているんですが、ピアノとベースだけがあるところから5拍子になっていて、いつの間にかまた4拍子に戻るっていう構成になっています。これなんかはまさにハウスミュージックの経験を、ピアノトリオにフィードバックできたものじゃないかなと思いますね。

 

── 一方でそんなテクニカルなアレンジでも、「どう、すごいでしょ」ってそれが先に来るんじゃなくて、心地よく違和感なく聴けるっていうんですか。作品としてきちんと昇華されているところが2枚のアルバムの特徴かなと思うのですが。

ありがとうございます。2枚のアルバムは2日間で一気に録ったんですが、メンバーとはここ数年何度もライブを重ねていて、いろんなことを練り上げてきていました。リハーサルスタジオに入って「どうします?」じゃなくて、何年にも渡ってライブで積み上げて、十分すぎるくらいの時間をかけて試行錯誤してきたからこそ、作品としての完成度も高められたのかなと。

Jewelry Box(2022年、Steelpan Records)

── とはいえこれまでの作品から、いきなりピアノトリオアルバムへというイメージの転換に、ファンの方はどう反応されるだろうか、っていう不安みたいなものはありませんでしたか?

ライブに来ていただいてるファンの方からは「(オーセンティックジャズの)アルバム出さないの?」って言っていただいていましたし、YouTubeなどでも最近は純粋なジャズピアノものをあげていて、それがコスプレやアニソンなど、いわゆる“企画もの”を上回る再生回数になったりしていたんです。何より私自身がオーセンティックなジャズアルバムを出したいって、デビュー以来ずーっと思っていたわけなので、不安というよりも‥‥。

 

── 内なるマグマを出さないと、って感じでしょうか(笑)。

ええ、もう爆発しそうって感じ(笑)。

 

── そんな高木さんの想い、そしてライブで積み重ねてきた音楽的な実験やメンバー間の信頼など、いろんな要素がピタリとはまって、2枚のアルバムが生まれたわけですね。

そうですね、ずーっとこうしたアルバムを出したいと思っていたので、少し前は「いつ出せるの」って悩んだり、焦ったりしたこともあったんですけれど、思い返してみると、そんな時期も含めて、このアルバムができるために必要な時間だったのかなと。実際、当初は1枚のアルバムをつくる予定でスタジオに入ったんですが、次から次へ想いが溢れて20曲以上の作品が完成しちゃって(笑)。おそらくこの創作への熱量もこのタイミングだったからでしょうし、時期が違ったら2枚は生まれてなかったのかもしれません。

*Desk Top Music
デスクトップミュージックの略。PCを中心にシンセサイザーなどの電子楽器を用い楽曲を制作すること。

 
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