あなたの理想の一台に
出会うために

── 逆にそうした微妙な個性を分かるためにも、自分が出したい音を知ることが重要なのかもしれませんね。

そうですね。指で鍵盤を叩いてそれがハンマーに伝わる感覚。これはアコースティックピアノじゃないとつかめないですよね。この指の力、指の感性っていうのは、弾いて習得するしかないんです。頭で考える理想の音を実際に鳴らすのは指。優しい音、悲しい音もすべてこの指の力で表現する。一方で、だからその指の感覚に正しく応えてくれるピアノっていうのがすごく大切なわけです。美容師さんがハサミの手入れを怠らないのも、レーサーがタイヤのわずかな変化を敏感に感じ取るのも多分同じで、演奏者の感性にピアノが完璧に応えてくれた時、はじめて自分の理想の音色を獲得できるんじゃないかな。
 

── ある意味すごく基本的なこととも言えますよね。ピアノを練習して少し上達すると、すぐ技巧的なものに走りがちですけれど。

プロのピアニストとして、人に感動を与えられるのは究極的には音色だと思っているんです。早弾きといった超絶技巧も驚きは与えるかもしれないけど、全部そればかりというのは違う。フィギュアスケートでも4回転ジャンプとかはプログラムの中に1回か2回で、必ず滑りや身体全体の美しさを表現しますよね。私たちの演奏もそれと同じで、凄技みたいなのは1ステージに1回か2回くらいで良くて、本当の聴かせどころは演奏者の感性とピアノがぴたりと合った綺麗な音色だって思うんですよね。

── 自分の音を知って、それに合うピアノとの出会いが上達への道でもあるわけですね。

新品もそうだけど、特に中古ピアノは実際に弾き比べて、そのピアノの個性を確認することが大事ですね。もちろんその過程で迷っちゃうってこともあるでしょうけれど、そんな時は信頼できるピアノのプロのアドバイスが重要になってくると思います。今回、ここでいくつか試奏させてもらいましたけれど、こちらのスタッフの方々は本当に多種多様なピアノに触れているから、そのアドバイスは参考になりますね。その点ではピアノに詳しい信頼できるお店、スタッフの方に出会うことは重要かもしれませんね。そして信頼できるピアノを選ぶこと。今回<リニューアルピアノ>に触れて、その整備・調整の質の高さにびっくりしたのと、そのピアノの歴史というのかな、「どこをどう直しました」っていう整備履歴がしっかり残っていることを知って「これは安心できるな」と思いました。
最初にリニューアルピアノの印象を聞かれた時「ヤマハの名前が付くのだから」って冗談っぽく答えましたけど。それはあながちジョークじゃなくて、やっぱりヤマハって名前は安心、信頼性ってことにつながってきますよね、その意味では各ピアノに貼られているヤマハ<リニューアルピアノ>のステッカーにはヤマハのプライドみたいなものを感じます。